映像 Video
映画『さよなら歌舞伎町』（廣木隆一, 2015.09.07）を観ました．
歌舞伎町のとあるラブホテルにおける一日に光を当て，
偽りの日陰の世界から抜け出そうとする男女の群像劇．
社会的仕事と個人的欲望の絡んだ計算がついてまわる男女の関係．
結果的に「その計算で相手を生きづらさから救えるか」が問題だ．
毎日毎日，体が痒くなり心が重くなるような汚れを宿して帰る．
優しく身体を洗って湯に浸かるだけで，確かに身体が軽くなる．
映画『の・ようなもの』（森田芳光, 1981.09.12）を観ました．
若手落語家が何者にもなれない焦りを感じながら過ごす，
競争よりも秩序のある仲間とのぬるい日常を描いた映画．
批判の目にさらされながら修行を繰り返す毎日．
観客の求める理想像と自分の美意識を共存させ，
試行錯誤を独りでやっていると人格が分裂する．
まとまりのない映像群が追いかけてきて脳内に侵入し続ける．
それを落語の道中づけのように，言葉とリズムで整えていく．
映画『深夜食堂』（松岡錠司, 2015.01.31）を観ました．
新宿の路地裏にひっそりと佇むこぢんまりとした食堂を舞台にして，
どこか違うようでいつもと同じ，店主と客達との交流を描いた映画．
食事という基本的な欲求が，素朴ながらも一日一日を支えている．
そこで気兼ねなく愚痴や四方山話をこぼせたら，もう最高だろう．
生きづらさは解消されないけれど，なんとなくの幸せが感じられる．
興味があるようで興味がない他人はいつも勝手．そんな距離もいい．
映画『愛のむきだし』（園子温, 2009.01.31）を観ました．
理想と俗物が綯い交ぜになった愛を求める人間の姿を，宗教と恋愛という
一見相容れないテーマを扱いながらエログロをむきだしにして描いた映画．
動物としてのエゴを抱えて生きる迷える人間が共栄を目指すとき，
肉体のない完成された理想像を言語化した宗教は絶大な力をもつ．
三大欲求を我先に満たそうとする姿は，俗物的で信頼できない．
消費が加速する現代社会において，家族という関係は近すぎる．
隠しきれない他人の欲求が自分を襲う気がしてならないからだ．
更新され続ける時代において完成形なるものは存在しないし，
他人と自分の理想像を完全に共有して歩むことは今や不可能．
でも綯い交ぜの愛を，信頼に足る人と語りあうことは出来る．
映画『0.5ミリ』（安藤桃子, 2011.10.26）を観ました．
押しかけ介護ヘルパーとなった女性が見知らぬ土地で出会う老人．
彼らの生活に飄々と入り込む彼女の立居振舞を泥臭く描いた映画．
自分の孤独を見つめ一人で生きていこうとする人の心に
ずけずけと土足で入り込む姿には，清々しさすら覚える．
壁を作って己を守ることが馬鹿馬鹿しく思えてしまうような
そんな信頼関係を結びたいなら，相手が自分に投影している
理想像をぶち壊してしまうほどの力強さを湛えた純粋さが鍵．
映像『団地日和』（仁田美帆, 2008.03.07）を観ました．
ひばりヶ丘・阿佐ヶ谷・百草・草加松原・海岸通・赤羽台という
関東の6つの団地を出演させた，2007年時点での映像アーカイブ．
本編では住棟間を散歩するように映像を構成しつつも，
竣工当時の写真や住戸内のカットも織り込まれている．
現在では建替えが進み，現存していないものが大多数．
特典映像として『団地への招待』と『住宅公団の歌』が収録されている．
当時の団地観が記録された貴重な作品．個人的にはこれが目当てでした．
映画『鍵泥棒のメソッド』（内田けんじ, 2012.09.15）を観ました．
表舞台に出られない貧乏役者，裏社会で活躍する便利屋，
二つの人生が交錯する様を描いた緩やかなコメディ映画．
人間は現実という舞台で与えられた生命と名前を演じる．
衣装・美術，演出・監督，演者・観客の全てを任される．
目標像が分からなくなると，舞台としての統一感を失う．
完璧な計画も遂行するためにはアドリブが必要で，
それを培うのが経験．継続しないと手に入らない．
映画『みなさん、さようなら』（中村義洋, 2013.01.26）を観ました．
小学校卒業以来，団地から一歩も出なくなった少年が暮らす世界．
「独立し完結した」空間における人間と環境の変化を描いた映画．
頭では分かっていても身体が動かない．自分との孤独な闘い．
相談なんて出来ない．返ってくる言葉が目に見えているから．
変わっていく風景を，知りたいと常に思い続けられるか．
優しく安全で頑固な自分の領域にいると忘れそうになる．
それにしても「パトロール」という日課は，孤独死対策として
各自治体で行われている「見回り活動」に通じるところがある．
冒頭部分で流れている『団地への招待』はこちらに収録されています．
劇中で語られるコピーは今作オリジナルですが，チープながらも秀逸．
映画『キューポラのある街』（浦山桐郎, 1962.04.08）を観ました．
鋳物工場のキューポラが象徴的な埼玉県川口市を舞台に，
高度経済成長期における職人家庭の暮らしを描いた映画．
北朝鮮帰還事業や労働組合への表現が時代を感じさせる．
付け焼刃でない自分の意見をもつことの積み重ね．
それを活かす現実には分からないことが多すぎる．
いい子になろうと持ち得る情報を総動員して対策を練っても，
木を見て森を見ない状態になりがち．何年か先を見据えれば，
内包した全てが嫌になる脆さも表面化しないのかもしれない．
映画“The Lego Movie”（Phil Lord & Chiris Miller, 2014.02.06）を観ました．
表現できないものなんてない，といっても過言ではないレゴ®．
ブロックの世界を舞台に，創造する楽しさと葛藤を描いた作品．
脳内の理想像にこだわって身動きがとれないないなんて，馬鹿みたい．
気に入らないなら作ってから壊せばいい．壊せばまた作れるんだから．
マニュアル通りだって構わない．真似をして初めて学べることもある．
大きな事に挑むなら，全体としての調和や安定も意識したくなるもの．